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とある日のとある閉鎖空間で

「帰りを待たせてもらいました」
 俺は家路を急いだことを後悔した。
「また閉鎖空間が発生しましてね。あなたと久し振りにゆっくりお話ししたいと思いまして」
「話だと?」
「ええ」
 古泉はいつも通り微笑しているが…その笑顔が俺には恐ろしい。古泉が俺に話。ああ、話ね。悪い予感しかしねえ。
「話するだけなら、別に今日じゃなくてもいいだろ」
 ここは逃げの一手だ。例の灰色空間に引きずり込まれたくはない。
「いえ、誰かの耳に入ってはマズイ話ですから。邪魔の入らない閉鎖空間でと思いまして」
 俺としては邪魔が入って欲しい。色々と反論したくはあったがこいつには何を言ったところで意味はないだろう。
「わかった」
 では、と古泉は言い、すっと片手を挙げた。キキッっと音をたてて黒塗りのタクシーが横に停車した。またか…。
「どうぞ」
「…ああ」

「話なら、このタクシーの中でもできるんじゃないのか?」
「そうですね。たしかに、このタクシーの中なら心配することはありません、が」
 が?
「ここで話す意味はありません」
 話す意味?お前の話に深い意味があったためしなんぞほんの1,2回だろう。
「お説ごもっとも。では、今回を3度目としましょう」
 3度目ね。
「で、今回のお前の話ってのはあの胸糞悪い灰色空間でないとダメなのか」
「まぁ、そういうことです」
 そういうこと、ね。
「ま、せいぜい中身のある話を期待してるよ」
「ご期待に応えられるように努力致しましょう」
 そう言って、古泉はフゥッと息を吐いた。

「さて、お話ですが今回は…涼宮さんの話というわけではありません」
「へ?」
「僕個人としての、友人であるあなたへのお話ですよ」
 俺を友人と呼んでくれるのはありがたいが、顔が近い。
「この閉鎖空間も、この間の局地的非浸食融合異時空間もそうですが、今後あなたは我々に関わることで、多くの危険にさらされると思います」
 結局その類の話じゃないか。
「僕が全力で、あなたの身をお守りしますよ」
 は?
「いきなり何のつもりだ、気色悪ぃ」
「ふふっ」
 その笑い方も気色悪ぃ。
「いえ、そう仰ることを予想していたので」
「そうか。で、その続きは?」
「続き、とは?」
「それだけなのか?」
 古泉はふっと、俺から視線を逸らした。
「それだけのつもりでしたが…」
「つもり…?」
「それでは」
「…ああ。行ってこい」
 古泉は赤い光球に変わり、少し前から俺の視界に入っていた青い巨人に向かって飛んでいった。

「で、あの話のどこが聞かれちゃマズイ話なんだ?」
「いえ、僕個人が気恥ずかしかっただけ、というのが本音ですね」
「それじゃ、続きを聞こうか」
 古泉はふっと微笑んだ。なぜかこの笑みは不愉快ではなかった。そう、いつもの古泉の笑みが演技で、この笑みが古泉の本当の笑みだというような。
「あなたは、奇跡を信じますか?」
「奇跡ね…また突飛な」
「確かに」
「信じてる…のかな。信じて無いとも思うが。って、矛盾してるか」
「いえ、それがあなたの答えですか?」
 俺は古泉をまねて息を吐いた。
「お前や、ハルヒ。長門に朝比奈さん。谷口に国木田、鶴屋さん、喜緑さん…皆と会えたのは奇跡かもしれない、そうは…思ってるかな」
「…この世に奇跡なんてない」
「え?」
 俺はその声の主を振り返った。
「『この世に奇跡なんてない。あるのは必然と偶然、後は自分が何をするか』。とあるおとぎ話の中で使われた一節ですよ」
「おとぎ話…ね」
「僕はその節が気に入っています。ただ、最初の部分、『この世に奇跡などありはしない』この節は本当は違っているんです」
「違っている?」
「この節には続きがあるんですよ。ただし違う人物の言葉ですが」
「違う人物、だと?」
「ええ。『時には、行動の結果が必然となりそれが偶然と重なって、図らずも夢が叶うなんてこともある。それが奇跡と呼べるかどうかはわからないけど、確かなことが一つある』という続きが、ね」
「その続きは?」
「続き、とは?」
「そいつの言う、そしてお前の言う確かなことってのを聞かせてもらおうじゃないか」
「僕の…?」
「お前の、俺に向けた言葉でもあるんだろう?」
「そう…ですね」
 古泉はまた、妙に綺麗に微笑んだ。
「続き、その節の最後は『思いがなければ何も起きない』です」
「思い、ね」
「ええ…着きましたよ」
「ああ。それじゃ」
「また、部室で」
「…ああ」

『この世に奇跡なんてものありはしない。あるのは必然と偶然、後は自分が何をしたかだけだ』
『時には、行動の結果が必然となりそれが偶然と重なって、図らずも夢が叶うなんてこともある。それが奇跡と呼べるかどうかはわからないけど、確かなことが一つある。思いがなければ何も起きないんだよ』

<了>

あとがき
「ef - a tale of memories」の一節を使ったハルヒSSキョン×古泉です。普段女性キャラものが多いので挑戦してみました。
読み返すと、やっぱり閉鎖空間に行った意味がない気がしますが気にしないで下さい。
この2人で話をまとめるのは結構たいへんで、まとまっているか心配です…。
                                   神の信者
# by DLMN | 2008-04-04 12:14

君の笑顔

「どうし…て」
血、血、血、血ーー
「どう…して」
スッと、男は顔を上げた。
「…ム?…」
その手には、鮮やかすぎる鮮血に彩られた短剣が握られていた。
「ガキか…何の用だ?」
「あ…ああ…」
「…?もしや、シャルデン・フランベルクか?」
「うああああぁぁああぁぁあああああああぁああああああ!!」
「待て!シャルデン!」

そこで目が覚めた。
通りは真っ暗で、この車に目をやるような通行人もいなかった。
「随分と…昔の夢を見ましたネ」
秘密結社クロノス最高幹部ウィルザーク。彼が過去に『時の番人達(クロノナンバーズ)』の1だった事を知る者はもうほとんどいないでしょうね。それこそ、クロノスの人間を除けば私だけ…。
私はいつも使っているナイフを取り出すと、何の気なしに手に傷を付けた。にじみ出る血を自分やナイフ、車や城などに形を変えて弄ぶ。
クリードは我々に尾行を付けてはいるでしょうが、すぐに手を出したりはしないでしょう。もうしばらくはゆっくり物思いに耽るとしましょうか。
「…すぅ…」
隣から、小さな寝息が聞こえた。
目をやると、そこには一人の少女が眠っていた。キョウコ・キリサキ。彼女がどう思っているかを除けば、私にとって友人と呼べる少女。
「変わった娘デスね」
城を出たときに彼女にかけた言葉を、もう一度小さく口にする。
私は、クリードのやり方について行けないと思い、クロノスと戦うためにこの道を選んだ。しかし、星の使徒の脱退はイコールで星の使徒に追われることにつながる。そして無論、クロノスにも…。私にとっての苦渋の決断を彼女はあっさりと終えてしまった。
(「だってぇーシャルデンさんだけ一人ぼっちじゃあ、カワイソーじゃないっすかぁ!」)
街に向かう車の中で、自分についてきた理由を彼女はそう語った。
「可哀想…デスか」
自分の境遇をそんな風に言われるとは予想外だった。勝手に組織に入り、リーダーの方針について行けず脱退、それは全て自業自得だと思っていたし、だからどうしたということもなかった。勝手に出て行こうとした私に一人ぼっちじゃ可哀想、なんて言葉をかけてくれるとは思いもしなかった。そしてそれが、その組織、星の使徒のメンバーであるなど尚更あり得ないことだった。
「本当に、変わってマス。あなたはネ」
キョウコさんには勿論聞こえていないでしょう。そしてこの言葉は聞こえる必要などないんです。
街の向こうに光が見えた。私は寝るときに外していたサングラスをかけ直し、車を降りていつもの帽子をかぶった。車の中の少女のカーディガンのポケットに走り書きの手紙を一枚入れて、一度だけ朝日に目を向けると街に向き直り、ゆっくりと足を進めた。


「んぅ…」
車の窓から差し込む朝の光で私は目を覚ました。
「ふわ…シャルデンさん、今何時ですかぁ〜?」
……………あれ?
隣のシートから返事はない。隣を見ると席は空だった。
「はて?どこに行っちゃったんでしょうかねぇ…」
呟いてから、私はんんっと伸びをして車から降りた。空は快晴、雲が一つもなかった。
「んーっ、天気いいですねぇ。それにしても、シャルデンさんどこ行っちゃったんでしょう?」
車の中からカーディガンを取り出すと、そのポケットから何かがこぼれ落ちた。
「おりょ?」
いつもの(・3・)な顔で落ちたものを拾い上げる。それはシャルデンからの手紙のようだった。

キョウコさんへ
私は街に買い出し等の用事で出かけています。
昼頃には戻りますのでそれまでは好きにしていてください。
                      シャルデン
PS,
外ではできるだけ「道」の力を使わないようにしてください。

(・3・)の顔のまま手紙を読み終えた私はフウっと息を吐いた。
「じゃ、好きにさせていただきましょう!」
私は街に向かって駆けだした。


「えーっと…食料は大体このくらいデスかネ」
市場やデパート、スーパーにコンビニと食料品関係は一回りした。
「あとは、『アレ』デスか」
そう言ってシャルデンはデパートに戻る道に入った。
やって来たのはデパート内のブティック。ちなみに今現在シャルデンは真っ黒なコート、長い金髪、丸いサングラスにシルクハットといういつもの格好のまま食品などの入った紙袋を持ち、ブティック内をキョロキョロ見回しているためもの凄く目立っていた。気付かないわけではなかったが私は周囲からの視線は無視していた。


「ああっ!…むむぅー…」
私はゲームセンターのUFOキャッチャーでなかなか目的のアイテムがゲットできず唸っていた。
「やっぱりひっくり返して引っ掛けるしかないですかねぇ〜…」
(=3=)な顔で悩んでみるものの、いい解決策など全く思い浮かばず、結局はとにかく何回もやるという単純な結論に行き着いて終わりだった。
「でも、アレは絶対にGETしなくてはならないのですよ〜」
おーし!と気合いを入れて、私は硬貨をもう一枚投入した。


昼過ぎ、車に戻るとキョウコさんが窓から顔を出していました。
「シャルデンさ〜ん」
ぶんぶんと手を振っている彼女に私は苦笑混じりに近寄る。
「遅かったじゃないですか〜、お昼過ぎちゃいましたよ。私お腹すきました〜…」
さっきまでの元気は何だったのか、というくらい力の抜けた声で話しかけてくる。勿論本当にそこまで弱っているわけでは無いでしょうが。
「すみマセんネ。コレを見つけルのに手間取ってしまいまシテ」
そう言って私が持ち上げた袋をキョウコさんは不思議そうに見ていましたが、食欲が勝ったのか、すぐに食料に気を取られてしまいました。
「ふぁー、ほうほう(あー、そうそう)」
「口の中のものを飲み込んでから話してクダサイ」
ごくんっと音をたてて飲み込んでからキョウコさんはもう一度口を開いた。
「今日は〜、シャルデンさんに見せたい物があるんですよ〜」
「見せタイ物…デスか?」
「じゃじゃ〜ん!」
そう言ってキョウコさんはどこからか二つの物を取り出した。
「それハ…」
「へへー、シャルデンさんとお揃いです!見つけるの苦労したんですよ〜?」
キョウコさんが持っているのは私のものと同じ形のサングラスとシルクハットでした。
「変わった娘デスね」
「むむっ!何ですか〜、その言い方は」
「デスが、とても嬉しいデス。キョウコさん、アリガトウ」
微笑んで私がそう続けるとキョウコさんは驚いた、という顔をしました。
「どうしまシタ?」
「シャルデンさん…笑った」
「ハ?」
「初めて見ました、笑顔」
なんだか、ついこの間似たようなやりとりをしたような気がしますが…。
「私だって何度かあなたの前で笑いましたよ?」
「星の使徒にいた時より、柔らかいですよ」
「そう…なのかも知れマセンね」


「では私カラも」
私がシャルデンさんの笑顔に呆気にとられていると、シャルデンさんもさっき私に見せた袋を取り出して中身を出してきました。
「あーーーーーっ!!!!」
それを見て私は大声を上げてしまった。車内だったことは私にとっては救いだった。
「ちょ、キョウコさん、声が大きいデスよ」
シャルデンさんが焦って私を制してくれたおかげで喉がかれたりはしませんでした。
「こ、これ…」
「プレゼントですヨ」
シャルデンさんが持っていた袋の中身は、私が今欲しいと思っていたジパングのブランド物の服だった。
「何で分かったんですか?」
「あナタの様子を見ていれば分かりマス。いつもその服を見かけるタビに物欲しそうな目をしていたじゃあアリませんカ」
「そうですかぁ〜?」
私の反応を見て不安になったのか、シャルデンさんは表情を曇らせてしまった。
「お気ニ召しませんデシたカ?」
「へ、ふぁ、全っ然そんなこと無いです!この服ずっと欲しかったんです!」
「そうデスか。良かったデス」
私の必死の弁解が通じたのか、シャルデンさんも安心した様子で微笑んできた。


「また、笑ってくれました」
「キョウコさんもデスよ」

<了>

あとがき
特に人に見せることを想定してはいませんがそうなった場合と、自分で読み返した時のための「あとがき」です。
星の使徒脱退直後の車内での会話をそれぞれの視点で書き出したSSを発見し、それに影響を受けて書きました。書き始めから完成に一日かからなかったのは初めてでした。
本編については、大好きだったのに今まで手を付けなかったシャルデン×キョウコです。星の使徒に居ながら思いっきり浮きまくっていたキョウコとクリードのやり方について行けないシャルデン。この二人は書いていて楽しいキャラです。クールなシャルデンと元気潑剌なキョウコという組み合わせも大好きです。今作は二人の脱退直後、トレイン達に出会う前を書いたわけですが、この二人はきっと、男女とか考えずに仲いーんだろーなーと思って「友達として」の仲の良さをベースにしました。ただ、シャルデンは案外片思いキャラかなーとも思ったりしているのですが…。シャルデンの過去については詳細が不明だったためトレインの過去をまねて「幼少時代に大切な人を殺された」という設定を勝手に作り、その犯人をクロノスのメンバーの中で誰にしようか、と考えた時、シャルデンがクロノスの下っ端に最長老の居場所を尋ねていたので勝手にウィルザークを時の番人達のⅠに仕立て上げてみました。
# by DLMN | 2008-04-04 12:06

涼宮ハルヒの衝撃 あとがき

涼宮ハルヒの衝撃
あとがき

純愛モノ大好きっす。でも、似合わないって言われそうだなァ…。
 突然、ハルヒとキョンで書きたくなって、結構前に完成していました。完成直後は、上出来!!って思ってたんですがねぇ…。今読むとかなり展開がクサイっすね。
 さて、僕は小説(駄作ですいません)を書く際にかなり悩みます。悩んで悩んで悩みまくります。でも、たいていの場合はたいしたアイディアは出てきません。そんな時僕は、インターネットで小説を書いている方のサイト、ブログに刺激を受けに行きます。いくつか読んで、何度か刺激を受けるとしばらくはネタに困りません。困ったらまたネットに逃げます。こんな繰り返しで、小説を書き進めていきます。
 ネット上の小説はどれも個性があってすごいです。そこから少しずつ拾い上げてきた要素をくっつけて一つの作品にしていくわけですが、これがなかなか進まないんです…。
 僕の場合、「涼宮ハルヒ」シリーズを始め、「灼眼のシャナ」、「学園カゲキ」、「ハヤテのごとく」、「DEATHNOTE」、「ボボボーボ・ボーボボ」、「らき☆すた」と、恋愛、ギャグ、サスペンスなどジャンルを問わず(恋愛モノが多い気がするが)好きなモノから書き始めます。そして、時々ふっと出てくるアイディアを文章にしようと悪戦苦闘というわけです。
 最近の子供は本を読まないとよく聞きます。僕が小説を読んでいると、「よくそんなの読むね」という声を聞きます。漫画や絵本も面白いでしょう。僕も好きです。でも、小説だって、十分、いや十二分に面白いんですよ。小説には、絵なんて必要ありません。筆者の方が作り出す世界に自然と引き込まれていき、気が付けばページが進んでいます。絵が無くても、面白いと思えば、無意識のうちにあなたの頭が絵を想像してくれます。たとえそれが鮮明で無くても、それで十分なんです。
 本は文章力、想像力、語学力、などの力を伸ばしてくれ、様々な知識を与えてくれます。本は、楽しく勉強するための道具にもなってくれます。本を読んでも損はしません。最初は、字の大きい本、薄い本などからでも、小説を読んでみませんか?きっと面白いですよ。

 と、ちょっと熱くなってみたりして、そろそろ終わりにしましょう。
 
                             神の信者
# by DLMN | 2007-11-10 14:25 | OTHER

涼宮ハルヒの衝撃

          涼宮ハルヒの衝撃

プロローグ
SOS団。
S、世界を
O、大いに盛り上げるための
S、涼宮ハルヒの団。
そんな活動に、強制的にとはいえ参加させられているせいで俺は毎回毎回迷惑をこうむる羽目になる。
が、悲しき性よ。なぜか俺は毎日放課後に文芸部の部室へと足を運ぶ。
なぜかと聞かれても答えようがない。
それまたなぜかといえばこちらは答えられる。簡単だ。
俺も知らん。
理屈などなしに放課後に文芸部の部室に出向く癖がついてしまったのだから仕方ない。
しかし、あいつは本当に元気だよな…
だからあの時はビビったぜ。
あの涼宮ハルヒが、泣いていたんだからな。

1,涙
「うるさいっ!あたしの言うことは絶対よっ」
「テメエ…もういい。俺はここをやめる!」
「ふえ?」
「まあまあ、ちょっと落ち着いて…」
「………」
「あばよ、SOS団」
「ちょっとキョン、待ちなさいよ…」
バタン!
…………………………
はあ。何やってんだろうなあ俺は。
SOS団をやめたのか。
帰り道、俺はどんよりした空気を漂わせつつ、のろのろと歩いていた。
自分で言い出したにもかかわらず、俺はもやもやした気持ちを抱えていた。
明日からハルヒに振り回されずに済むのに、宇宙人とも未来人とも超能力者とも縁を切れるのに、クラスメイトに殺されかけたり、胸糞悪ぃ未来野郎にも会わずに済むし、青カビ巨人ともおさらばできたのに。
寂しくなったもんだ。
それが、今の俺の素直な気持ちだった。
翌朝、俺の後ろの席にハルヒの姿はなかった。

その日、ハルヒは、昼休みの途中に、真っ赤な目をして、いつもより幾分テキトーな髪型で登場した。
荷物を置くと、すぐに教室を出て行き、授業には現れなかった。

放課後、俺の足は…部室へ向かっていた。
文芸部部室の前まで来て、ふと思い出した。
「そうだったな。俺にはもう関係ないんだったよな」
そこを立ち去ろうとして…聞いた。
「ううっ…うっ…ひっく…」
「…涼宮さん、そう気を落とさずに…」
「そ、そおですよぉ」
「………」
ハルヒ…
俺には、ハルヒにかける言葉が見つからなかった。
そんな勇気も、なかった。

帰るに帰れなかった。
俺のせいだとわかっていたから、俺は学校を出られなかった。
ガラガラッ…
「あっ…」
教室の戸口から声がした。
振り返ると、ハルヒが、俺を見て硬直していた。
「ハルヒ…」
「…キョン…」
それだけだった。
ハルヒはタイルの床を必死に見つめながら自分の席に来て、荷物の入ったカバンを担いで出て行ってしまった。
ハルヒの後ろ姿を見て、俺は驚いた。
「………」
ポニーテールだった…

ハルヒが出て行ってからすぐ、古泉がやって来た。
「…よお…古泉」
古泉の顔も見られない。
「……ですか」
「…何だって?」
「どうしてですか!?」
さっきとはうって変わって、叫び声だった。
初めて見る、取り乱した古泉。
「涼宮さんは本気で悩んでいます。あなたに嫌われてしまったのではと」
「………」
何も言えなかった。
「あなたが…そんな人…だと…は…」
古泉の目からも、涙がこぼれていた。
「すまん、古泉」

翌日には、長門と朝比奈さんもやって来た。
朝比奈さんは、今にも泣き出しそうな顔で、長門はいつもの表情に少しばかり影を落として、俺の前に立っていた。
「ど、どうして、どうしてですかぁ!」
朝比奈さんはそう言って、両手で顔を押さえて走り去ってしまった。
長門は、闇色の瞳で俺をしばらく見つめると、
「帰還要請」
と言って背を向けた。
俺は、誰にも何も言えなかった。
2,決意
俺は憂鬱な毎日を送っていた。
ハルヒは日に日に学校に来なくなり、古泉、長門、朝比奈さんは俺を避けるようになった。
そんなある日のことだった。
ハルヒが、交通事故にあったって聞いたのは。
担任岡部が、クラスに伝えた。
「ハルヒは!?ハルヒはどうなったんです!?」
突然立ち上がった俺に、クラス全員の目が向いた。構うもんか。
「す、涼宮さんは…意識不明です」
そんな…
俺が椅子に倒れ込んだのを見てクラス全員が、不思議そうな顔をした。
放課後、俺は古泉、長門、朝比奈さんを呼び、病院へ向かった。

受付でハルヒの病室の番号を聞くと、俺は飛んでいった。
他の三人が到着する頃には、俺はハルヒの横たわるベッドに駆け寄っていた。
「ハルヒ…」
ハルヒは呼びかけに答えない。
「…すまん」
俺はこの時心に決めた。
以前ハルヒは、俺が起きるのを待っててくれた。
俺も待つ。そして、俺がお前に謝らなくちゃいけねぇんだ。
だから、起きろよ、ハルヒ!


3,手紙
「あなたに渡す物があります」
古泉は真面目な顔で、俺に封筒を手渡した。
「僕たちは、もう帰ります」
そう言って、古泉が背を向ける。
続いて長門、最後はベッドにすがりついていた朝比奈さん。
俺はパイプ椅子に座ると、古泉に手渡された封筒を開いた。
それは、ハルヒからの手紙だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
キョンへ
こんな手紙書くなんて、何だか慣れないけど、キョンには知っておいて欲しいから。
あの時は、自分勝手なこと言って、ごめん。
あたしは、キョンを相手にするとついついケンカ腰になっちゃうんだ。
あたしも変だよね。あんなふうにケンカばかりしてるのに、キョンのことが好きなんだ。
いつもいつも、あんたを見かけるたびに目が追いかけてたわ。
どうしたらいいかわかんないんだ。
面と向かっては言えないし、手紙書いても渡せない。
だから、古泉くんにこの手紙を預ける。いつか読んでくれると信じています。
大好きなキョンへ。                ハルヒ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーぽたり…
俺の腕に、涙が落ちた。
「ハルヒ…」
俺もだよ。
今気付いたばかりだけど、まだ間に合うよな?

俺はハルヒに近寄る。

お前が古泉を信じて、俺を信じてこの手紙を書いたのはよくわかった。
だから、俺にも信じさせてくれ。
お前が帰ってくると。またお前のあの笑顔がみれると。

俺はハルヒの顔をのぞき込む。
また、部室に来いよ。ハルヒ。

俺はハルヒと唇を重ねた。

4,答え
「ん…」
 ハルヒが目を開けた。
「…へ?……」
 そして、眼前の俺を見て目を見開いた。
「わっ!ちょっ、キョ、キョン!」
 ハルヒが飛び起きる。と同時に俺が転ぶ。
「ててて…。よお、起きたか」
「ちょっと、あんた何してんのよ!」
 何と言われても困る。ところでお前、顔真っ赤だぞ。
「う、うるさいわよぉ…」
 俺は手紙をハルヒに見せる。
「…ぁ…」
 小さくブツブツ言っているハルヒに、俺は言ってやった。
「悪かったな」
「え、あ、う、うん」
 ハルヒはまだ解っていないみたいだったが。
「ったく。電話での告白に怒ってたヤツが手紙で告白とはな」
「い、いいじゃない…別に」
 誰も悪いとは言ってないぞ。
「ぬうっ…」
 こちらを睨んでいたハルヒは、変な声を上げてから、もぞもぞベッドから降りようとしだした。
「待て」
「なによ、キョ…うぁっ!」
 ハルヒが腹部を押さえて苦痛の表情を浮かべる。
「だから待てと言ったんだ。全治一ヶ月。生きてるのが不思議なくらいだとよ」
 最後のはちょっと大げさか。
「………」
 無言のハルヒを布団に押し戻す。
「………」
「ん?どうした」
「答えを聞いてない」
 何の?
「こ、告白よ。あたしだけコクってあんたはだんまりってのはだめよ」
 ああ、そういやぁ返事をしてなかったな。
「で、どうなのよ?」
 決まってんだろ。ハルヒ。
「もちろん!」
「?」
「ハルヒ…」
「な、何よ?」

「俺と付き合ってくれ」

「………ふぁ?」
 朝比奈さんみたいな声を出すな。
「二度も言わせるなよ」
「ふぇぁ…え、ええ」


エピローグ
「涼宮さぁぁん!!」
「へっ?み、みくるちゃん?」
「よかった…ホントによかったですぅ〜」
 病室の扉を開けて、真っ先にハルヒに飛びついてむせび泣き始めたのはもちろん朝比奈さんだ。続いて古泉、長門と、ハルヒに回復祝いを述べていた。
 古泉は、
「よかったですよ。いえ、本当に。涼宮さん、おめでとうございます」
 そして、古泉は知ってますよといういつもの笑顔で、ベッド脇に立っている俺に近寄って来て、
「やりましたね!」
 と、小声で言ってベットから離れた。
 まあ、今回ばかりは反論しないことにする。手紙を受け取った古泉は全部知ってるんだろうしな。
長門は、
「…おめでとう…」
 と言ってベッドを離れ、古泉と同じく俺のところにやってきて、
「お帰り」
 と言って、ほんの一瞬、ミリ単位(いやミクロンか?)の表情の変化で微笑んだように見えた。
「ハルヒ、長門、朝比奈さん、古泉」
 皆が俺を振り返る。
「図々しいとは思うが…」
 いいんだよな、これで。
「俺をもう一度、SOS団に入れてくれ」
 頭を下げた俺を、四人はそれぞれのリアクションで迎えてくれた。

「もちろん、僕はかまいません。あなたがいないとどこか勢いに欠けますしね」
古泉…
お前にも、感謝してるんだぜ?

「あああ、あたしも、戻ってきて欲しいですぅ。こここれからもよろしくです!」
朝比奈さん…
もちろんこれからもよろしくお願いします

「どうぞ」
長門…
頼りにしてるぜ?また、図書館行こうな…

そして、だ

「もちろん!いいに決まってるじゃない!あんたが戻ってきちゃいけない理由なんて一つも無いわ。とっとと帰ってきて、あたしの分まで働くのよ?わかった?」
わかったよ
これからもよろしくな、ハルヒ
そして、SOS団
やっぱり、俺の居場所はここだけだよ。
「それじゃ、あたしが回復したら、活動開始よ?遅れた一ヶ月を取り戻すのよ!」
「「「「オー!」」」」「……」
# by DLMN | 2007-11-10 14:23