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最近の読書事情[ヴァンパイア・サマータイム]

読書感想文です。映画に引き続いてこっちも始めてみましたw
今回は石川博品著、ヴァンパイア・サマータイム(ファミ通文庫)です。

最近の読書事情[ヴァンパイア・サマータイム]_c0135432_1632326.jpg山森頼雅は、毎日夕方になると両親の営むコンビニの手伝いに出る。ドリンクの品出しのためにバックヤードに引っ込んでいると、いつも彼女は現れる。悩んだ末にいつも同じ紅茶を買っていく「吸血鬼」の少女。彼女の顔をドリンクの棚越しに見つめるのが頼雅の数少ない楽しみだった。
吸血鬼なんて、別に特別でもなんでもない。この世界の人口の半分は吸血鬼で一日の半分は昼の人間、もう半分は夜の吸血鬼のものだ。学校も昼と夜にわかれていて、同じ学校に通うその少女と学校で顔を合わせることはない。
ある日、友人との寄り道で帰宅が遅くなった頼雅は吸血鬼たちの通学に遭遇する。そこで偶然にもあの少女、冴原綾萌と知り合い、二人は惹かれていく。けれど昼と夜を住み分ける二人は、互いにすれ違ったり、遠慮したり、勘違いしたり。自分の想いに向き合ったとき、二人の世界は重っているのだろうか――


こんな感じのストーリー。
恋愛ものとしての完成度が異常なまでに高いと思う。
初めに書店で手に取った時は異種族間恋愛が好きな自分的には外せねぇ!って感じで購入したのだが、この本の真に面白い部分はそんなところではない。

この作品には、特に劇的な事件や特殊な人物は登場しない。主人公はどこにでもいる人間で、ヒロインも「どこにでもいる」吸血鬼だ。人間と吸血鬼が昼と夜を分け合う世界、という世界観がすごくしっかり出来ていて、吸血鬼たちも生活のサイクルが違うだけで人間となんら変わらないということがキチンと描けている。

だからこそ人間と吸血鬼の「些細な」違いから戸惑ったり、躊躇したりしてしまう二人の心情にもリアリティがある。相手は自分とほとんど同じ、でも全く同じではない。そんな人間同士でさえ当たり前のことを思い出させてくれる。

全体的にここだ!という盛り上がりもなく、思い返すと平坦にすら感じられる物語だったが文章は読みやすく途中でダレてしまうこともないので全然気にならない。むしろ何も特殊な事件なんて起こらない普通の世界の普通の話だからこそ共感できるし身近に感じられる。

二人の出会いから、互いに惹かれていく過程まで、交互に主人公とヒロインを中心に据えて展開していく中で読者は二人の共通点を見つけたりすれ違いを見つけたり、誰でも経験したことのあるような恋の悩みに思いを馳せる。二人の心情の描写がすごく丁寧で、するすると自分の中に入ってくる。本当この文章力には感服する。

特別じゃない二人の、特別じゃない恋の話。
だからこそ、それはすごく特別なんだと思う。他人からすれば特別じゃないありふれた恋だって、きっと当事者になってみればたった一つしかない奇跡だ。この小説は、そんな特別じゃない奇跡の話。

ヴァンパイア・サマータイム (ファミ通文庫)

石川博品 / エンターブレイン


by DLMN | 2013-08-24 17:11 | 読書
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